【楽曲制作】RESEARCH Conference Theme Song Clubの5周年記念アルバム | リサーチャーの「あるある」を、曲にする仕事がある。
スタジオイオタ(studio iota LLC.)代表の前田紗希です。
簡単に自己紹介から。3歳からピアノを弾いてきて、
普段はミュージシャンとして活動しながら、studio iota合同会社という会社を運営しています。
レコード会社と音楽出版社を軸に、音楽の企画・制作・流通までを一貫して行っています。
仕事柄、企業の映像音楽や店舗BGM、ウェディング音楽、民族音楽など、
いろいろな音楽制作に携わっていますが、その中に少し変わったプロジェクトがあります。
リサーチャーやデザイナーが集まるカンファレンス
📖【RESEARCH Conference】のテーマソング制作です。

コミュニティのための歌を作る仕事
日本発のカンファレンスに、毎年新曲が発表されるテーマソングがある。
しかもBGMではなく、メンバーが書いた歌詞があって、運営スタッフが自分で歌って、会場でも流れる。
そう言うと、けっこう驚かれます。
ところが、4年間にわたってテーマソングを作り続けているコミュニティがあります。
RESEARCH Conferenceです。studio iotaは、このテーマソング制作に企画段階から関わってきました。今年で5周年!
周年を機に振り返ってみると、興味深かったのはリサーチャーの皆さんと音楽家との仕事の進め方の親和性でした(と勝手に思っています)。
国立音楽大学作曲科卒業。のちに一般大学で心理学の学位を取得。ドラマー、作曲家として活動し、ロンドン、ベルリン、ニューヨークでの演奏経験を重ねる。25リットルのリュックとドラムスティックを携えて世界一周のち、旅・音楽・食を融合させるレコード会社兼出版社「studio iota LLC.」を設立。
2023年には「Gwangju Busking World Cup(韓国)」「Tainan City Music Festival(台湾)」「GLUC Fest(台湾)」に出演。2025年には「Karneval der Kulturen(ドイツ)」にドラマーとして出演。
演奏活動の傍ら、現在9つの事業を展開している。また音楽療法士として、音楽療法の普及にも取り組んでいる。
1. RESEARCH Conferenceとは
RESEARCH Conferenceは、デザインリサーチ・UXリサーチの実践知を共有することを目的に2022年に始まった、国内最大級のリサーチカンファレンス。
2022年は初開催かつオンラインでの開催でしたが、2023年からオフライン会場での開催となり、
テーマソングプロジェクト「RESEARCH Conference Theme Song Club」もここから本格的に始動しました。
今年2026年は5周年。テーマは「WEAVING(織る)」です🧶

2. studio iotaが担ってきたこと
studio iotaが担っているのは、テーマソング制作の音楽ディレクション全般です。
曲を一本納品するだけの仕事ではありません。
企画会議への参加、作曲や編曲はもちろん、必要に応じた演奏家やアレンジャーへの依頼、歌い手さんへのキー合わせ。
楽譜を書き、レコーディング、ミックス、マスタリングまでの進行管理。
さらに各種サブスクでの配信手続きや著作権登録も担当しています。
音楽の方向性を決めるところ、作詞、歌うところは、カンファレンスのスタッフさん自身が毎年担っています。
歌詞や歌がコミュニティの内側から生まれて、それを楽曲として形にする工程をstudio iotaが一括で担う。
そういう役割分担です!
3. Slackから始まったテーマソング制作
このプロジェクトに声をかけていただいたきっかけは、発起人のひとり木浦幹雄さんと私がもともと知り合いだった、という偶然です(ありがたや)。
1年目はコロナ禍でオンライン開催だったカンファレンスが、2年目に初めて対面開催を実施することになりました。
前日から会場が借りられるとわかり、前夜祭をしようというアイデアが出て、木浦さんが運営スタッフのべぢまきさん(現役UXリサーチャー)に、カラオケライブでもやったらいいんじゃないか、と提案したそうです🎤笑
前夜祭もカラオケライブも結局実現しなかったのですが、その話の流れから、カンファレンスの歌を作ろう、という方向に転がっていきました。
◆
歌い手となるべぢまきさんがアドリブで曲と歌詞をなんとなく作って歌い、Slackでスタッフに共有したところ、いいやん、いいやん、という反応があり、本当に作ろう、となって。
そこで曲作りなら適任な人がいる、と思い出していただき、私にLINEが届きました。

最初から大きな企画だったわけではありません。
2023年、テーマソングプロジェクト「RESEARCH Conference Theme Song Club」の最初の楽曲『Can’t stop researching ―あるリサーチャーの物語―』を制作し、
スタッフの打ち上げで披露したところ思いがけず大きな反響があり、来年も新曲を作ろう、という流れになったそうです。
そこから歌い手さんが共に歌うメンバーを募り、名乗りを上げたのが、運営スタッフとして司会も務めていたUXリサーチャーの仙田さんでした。
主催者側の提案もあり、翌年の2024年「ROOTS」からラップパートを担当することになるなど、運営メンバー自身がメンバーとして増えていきます。

4. 年ごとの楽曲と、なぜその音を選んだか
テーマソングは、その年のカンファレンステーマに沿ったテーマワードを必ず歌詞に入れながら、毎年まったく違う音楽性で作られています。
2023年「SPREAD」
最初の年は、歌い手さんご自身が大手企業のリサーチャーであり、歌の専門家ではないという前提がありました。
音楽的にかっこよくしようとしすぎると、かえって滑ってしまう。
あえて最初からB級アイドル風という方向に振りました。
結果的にホーン隊入りのミドルテンポな4つ打ちという、
親しみやすく、少し不器用で、参加する側に余白のある仕上がりになりました。
この曲は、会場のジングルにも使われています。
「広げる」というテーマに対して、完璧なスターではなく、みんなに広がっていく歌を選んだことになります。
歌詞には、リサーチが社内で認められない、一人で地道にやっていく、予算がなかなか出ない、といった当時のリアルな悩みが入っていて、それを一つずつ乗り越えていく物語になっています。
2024年「ROOTS」
PerfumeやVOCALOIDを思わせる、生声をロボットボイス処理した音作りに、ラップパートを乗せた一曲。
考え続ける人たちの脳内を音にしたらどうなるだろう、という発想から楽曲制作が始まりました。
最終的には、水曜日のカンパネラの『エジソン』をモデルにしています。
レコーディングスタジオでは、街中を同じテンポで歩いているくらいのトーンでといった具合に、
歌とオケの温度感(トンマナ)を細かくすり合わせていきました。
2025年「POTENTIAL」
生成AIが台頭してきた年。新しい試みとして、スタッフの方がAIで作曲したドラフトをベースに制作しました。
ところが、AIが作った曲をいざ譜面に起こしてみると…
人間の声域を完全に無視した超高音だったり、32分音符が連続するボカロ専用のような複雑な構成で(笑)
結局、音楽ディレクターとして「人間が歌える、かつ心地よいものへ」楽譜を作り替えました。
AIの良さを活かしつつ、最後は専門知識を持った人の手で仕立てる。今の時代らしい制作工程でした。
YOASOBI的な、情報量の多いダンサブルな一曲。
情報量の多いメロディだった分、会場で歌いやすく覚えやすいことを、サビの歌詞のシンプルさに託しました。
2026年「WEAVING」
5周年を記念して、これまでの3曲をマッシュアップしました。
リサーチと他のものが織り合わさっていくというテーマが、そのまま重なる一曲です。
メドレーではなく、気づいたら別の曲に入れ替わっているようなWeavingな仕組みに。
自分たちが権利を持っている楽曲だからこそできる、かなり贅沢な遊びですよね。
曲調も、テンポも、調性もまったく違う3曲を1つの曲のようにマッシュアップする作業は、
なかなか難しい依頼だったと思います!
⭐️
個人的にはアレンジもかなり気に入っています🫶自信作。
カンファレンスのテーマソングプロジェクトとしては、
かなり新しい試みではないでしょうか。(おそらく日本初では・・・?)

かっこよさより、覚えやすさ。
5.「みんなで歌える」を考える|作曲編
商業音楽は技術が重視されることも少なくありませんが、コミュニティの歌で大切なのは参加者が覚えやすいこと。
商業的なJ-POPを作るのではなく、現代の校歌や応援歌、キャラクターソング、あるいは民謡に近い発想で作っています。

最近のJ-POPは複雑なリズムや、細かなシンコペーションを多用して曲を推進させますが、カンファレンスのテーマソングは別の方向を目指しました。
✅ 手拍子に合うわかりやすいリズム、
✅ 覚えやすさ、
✅ 気づいたら歌えてしまうこと。
意識しているのは、こんなことです👇
- 複雑なリズムや、細かなシンコペーションは入れない。誰もが迷わず歌い出せるように。
- 転調は最小限に。
- 1番と2番のリズムを大きく変えない。覚えやすさ重視で、歌詞に合わせて音符の数を整える程度にとどめています。
- 歌唱者にとってベストな音域を、まず確認する。声優のキャラソン制作に近い、無理のない声の出し方です。
べぢまきさんからいただいた、気づいたら口ずさんでいるような、ちょっと洗脳性のある曲にしたい、というリクエストを形にした結果でもあります。

2025年「POTENTIAL」/AI作曲を人間が歌える形に
歌をシンプルにする代わりに、楽器陣にはドラムソロなどの見せ場を作っています。
私がドラマーだからと皆さんが気を使ってくれたのかな、と後で気づいて。
演奏者としての自分もコミュニティの一員として扱ってもらえているようで、すごく嬉しかったです❤️
6.歌詞が、コミュニティのアーカイブになる|作詞編
リサーチして集める
歌詞作りはゼロからのスタートで、作詞の入門書を何冊も読んで、リサーチャーの皆さんから「リサーチャーあるある」をワークショップ形式で集めて作られたそうです。
私はリサーチャーではありませんが、仕事をしていたら思わず頷くような経験が歌詞になっていて、
これは辛い!わかる〜!!
と、エッセイを読んでいるような気持ちに。
上がってきた歌詞をメロディに乗せるとき、
大事なのが発音箇所の調整です。
- 歌唱時の発音しやすさを考慮し、拍の頭に発声しにくいパ行などの破裂音を置かない。
- 「イ」や「ウ」という母音は口の開きが小さくなり、声が遠くまで飛びにくいので、
歌詞の始まりは「ア」や「オ」に調整する。
◆
作詞の経緯やプロセスは、仙田さんがnoteに詳しく書いているので、気になる方はこちらもぜひ。
▶︎ド素人がリサーチのラップを作った話|仙田真郷
学術発表もされたそうです
6.音楽の専門家ではないリサーチャーやデザイナーと組むとき、何が起きたか
リサーチャーやデザイナーと一緒に曲をつくる、と言うと少し特殊な組み合わせに聞こえるかもしれません。
4年間で感じたのは、思った以上に相性が良かったということでした◎
特に面白かったのが、皆さんの言語化能力の高さです🙇♀️
ミュージシャンは感覚を抽象的な言葉で伝え(てこじらせて喧嘩し)がちですが、リサーチャーの方は違います。
わからないことを曖昧にせず、「これってどういう意味ですか」とサッと聞いてくださる。
仕事の進め方が体に入っているので、認識を揃えるプロセスがとにかく的確です。
ターゲットを理解し、言葉を集め、納期に向けて形にする。
音楽とリサーチはまったく別の分野ですが、少なくともこのプロジェクトに関しては、驚くほど噛み合っていました!

8.コミュニティに歌があるということ
完成した歌は、運営スタッフの間で実際に歌われています。
最初の曲が完成したカンファレンス当日、
関係者打ち上げの場でべぢまきさんが歌い出すと、それまで個々に話していた100人以上が、
手拍子やコールで一つになったそうです。
その体験が、翌年以降もテーマソングを作り続ける理由になっています。
◆
それからは、スタッフが移動中にふと口ずさんでいたり、初対面同士が歌をきっかけに一緒に盛り上がったり。
歌が、参加者同士の共通言語になっている場面が生まれているそうです。
テレビの影響力が強かった時代に比べると、今は誰もが共通して歌える「トレンド曲」が生まれにくい時代だと思います。
そんな中で、コミュニティが自分たちのテーマソングを持っているというのは、思いを伝えて共有していくための、けっこう強力な手段なのではないかと感じています。
