IOTA-LOG

おとと、たびと、しごと

はじめに。レコード会社を経営するようになって、世界の見え方がどう変わったか

 

バックパック一つで地球を半周した頃、私は今日という日は今日で終わるものだと思って生きていた。

スペインの安宿で意気投合しかけた旅人との熱っぽい会話も

(スペイン語ができないことを気にしすぎて、結局途中で逃げてしまったのだけれど)、

 

グアムの観光向け市場でのバチバチの値切り交渉も

(気づけばGUESSとでっかくプリントされたTシャツを掴まされていたのだけれど)、

 

スリランカの空港で客引きに「ノー、サンキュー」を百回くらい言い続けたおっかなさも、

その瞬間は強烈に輝いているのに、空港を出たらもう記憶の中にしか存在しなくなる

旅とは基本的に、消費されて終わる出来事の連続だ。

 

だからこそ美しいという価値観もあるけれど、

経営者になった今、消えていく体験と積み上がっていく資産の違いに、無性に興味を持つようになった。

深夜、アーティストのデモ音源と書類とを交互に眺めながら考えていたのは、こんなことだった。

音楽という出来事は、なぜ資産になれるんだろう?

 

ライター 前田 紗希

国立音楽大学作曲科卒業。のちに一般大学で心理学の学位を取得。ドラマー、作曲家として活動し、ロンドン、ベルリン、ニューヨークでの演奏経験を重ねる。25リットルのリュックとドラムスティックを携えて世界一周のち、旅・音楽・食を融合させるレコード会社兼出版社「studio iota LLC.」を設立。

2023年には「Gwangju Busking World Cup(韓国)」「Tainan City Music Festival(台湾)」「GLUC Fest(台湾)」に出演。2025年には「Karneval der Kulturen(ドイツ)」にドラマーとして出演。

演奏活動の傍ら、レコード会社経営・BGMライブラリー開発・ブライダルBGM原盤制作と配信・ISUM対応音源の提供・音楽療法・メディア運営・キューバ音楽のフェアトレードなど、現在9つの事業を展開している。また音楽療法士として、音楽療法の普及にも取り組んでいる。

 

近年「日本人が消えた楽園」として語られることの多いサイパンとグアム

 

1. ライブは放っておけば旅の記憶のように、流れていく音楽体験

ライブハウスでの演奏45分間は、旅先での1日とどこか似ている。

演者にとっても観客にとっても強烈な体験だけど、

演奏が終われば、その日の出来事は、基本的にはその場にいた人たちの記憶の中にしか残らない。

翌日には別の街で別のライブがあり、また新しい出来事が立ち上がっては流れていく。

もし楽譜や録音、出版やレコード会社といった「残す仕組み」がなかったら、

音楽は今なお、旅の記憶と同じくらい儚いものだったかもしれないな、と思うことがある📚

 

ライブは終われば消える。でも録音して、権利を整理して、流通に乗せる。

音楽ビジネスはずっとその一手間を積み重ねることで、消えるはずだった演奏を、

翌年にも、70年後にも生き続けるものへと作り替えてきた。

 

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2. 音楽ビジネスの基礎知識。著作権・原盤権・著作隣接権をインディーズ目線で整理する

音楽業界は一枚岩のようで、アーティストや作家、レコード会社、音楽出版社、著作権管理事業者、業界団体など多くの分野の方々が関わっており、細かく役割と責任を分担しあっている。

ここは私見というより、インディーズ規模の音楽ビジネスまわりの整理として書いておく(🙏)。

細かい契約実務は会社やケースによって差があるので、一般的な理解として読んでほしい。「いやそこはこうだよ!」など諸先輩方の中にもし知識を優しく提供してくださる方がいらしたら、noteからコメント等くだされば嬉しいです。

 

 

演奏・実演について

🎙️ 演奏そのものは、録音などで固定しない限り、その場で消えていく。

録音という作業があって初めて、演奏は原盤(いわゆるマスター音源、法律上は「レコード」という音の固定物)

として残るようになる。

 

🎤 演奏者や歌手には、実演した時点で実演家の権利という著作隣接権が発生する。

契約がなくても権利自体は生まれるけれど、実際に収益として受け取るには、契約や管理の仕組みが別途いる。

個人制作ではここまで手が回らないことも多いのだけれど、だからこそ、整える事業者の出番があるのだと思う。

 

✍️権利が発生することと、資産として機能することは、どうも別の話である

 

原盤権について

💿 著作隣接権は、演奏者やレコード製作者など「作品を伝達する人」に与えられる権利の総称で、

著作隣接権という大きな箱の中には、主に「実演家の権利」と「レコード製作者の権利(原盤権)」が含まれています。

 

その中のひとつ、レコード製作者(音を最初に固定した人)の権利が、一般に原盤権と呼ばれる。

資本力のあるレコード会社やレーベルが持つイメージが強いけれど、実務上はたいてい制作費を出した人と一致するので、

自主制作では、制作費用を負担したアーティスト自身が持つことも珍しくない。

 

✍️ 原盤権を自分たちで持っていると、音源の流通ルートやライセンスなど、収益化の方法をコントロールしやすくなる🏢

 

著作権について

🖋️ 著作権は作詞・作曲によって発生する権利で、基本的に原盤権とは独立している。

著作権自体は録音より前、作詞・作曲の時点ですでに発生しているものなので、権利ごとに生まれるタイミングは少しずつ違う。

 

自身の作品が利用された際、使用料(印税)を受け取るには、作家から音楽出版社への著作権の譲渡や管理委託など、契約形態はいくつかあり、国や地域によって管理団体の仕組みも異なるようだ。

 

✍️(あくまで自分が見聞きしてきた範囲の理解として悪しからず)。

 

流通について

🌏 CD販売や音楽配信は、それらの権利が収益として実現される主な流通経路のひとつであって、権利そのものではない。

 

レコード会社を始める前は、CDを作れば音楽は残るんだと思っていた。

 

録音して、権利を整理し、流通という仕組みに乗せることで、

時間や場所を超えて届き続ける可能性は広がる。

 

一つひとつが、思っていた以上に大切な作業だった。

※もちろん、ライブ会場や展示会などで直接手に取っていただける作品もある。

 

この積み重ねがあるからこそ一回限りの出来事が、何十年も収益を生み続ける状態になるんだと思う。

 

3. 才能とビジネス力はイコールではない。残す仕事への仮説

ここから先は、まだ検証されたわけではない、自分なりの考察として書く。

 

音楽に限らずライブパフォーマンス全般、

その場限りで完結してしまう表現は、録音や権利化にあたるような、

何らかの形に移し替える一手間を挟まなければ、

その場では評価されても、時間を超えて届き続ける資産にはなりにくいのではないか

 

というのが最近考えていることだ。

 

仕組みを作る力

演奏がうまいことと、70年後まで収益を生み続けることは、

必要な力の種類が違う気がしている。

  • 前者はその瞬間の価値を最大化する力で、
  • 後者はその瞬間の価値を、別の形に移し替えて時間を超えて届ける力だ。

 

多くのアーティストが曲を作ることには長けていても、

権利を整えて届け続ける仕組みまでは手が回らないまま終わってしまうことがあるとすれば、

この二つの力がそもそも別物だからだろう。

契約まわりでは会社の謄本が求められる場面も少なくないイメージ

 

そもそも仕組みに乗せる勇気が出ない人もいる

以前サポートで出ていたバンドが、メジャースタジオで録ったCDを手売りしていたことがある。

曲がとても良くて、映像のBGMにも合いそうだったから配信してみないかと持ちかけたら、

メンバー全員に「売れなかったら恥ずかしい」「誰も買わないよ」と却下された。

 

真剣に音楽と向き合ってきた人ほど、こういう不安の方が先に立つのだと思う。

売れなかったコンテンツのことなんて、結局誰も覚えていないのに。

 

だから音楽ビジネス自体が誤解されやすい

と言いつつも、やっぱり演奏家界隈にいると「サキの会社って不労所得なんだよね」と言われることもあって、

そのたびに優柔不断な自分は、うまく説明できていない気になる。

 

音楽ビジネスという概念自体が伝わっていないのか、「初期費用無料でアレンジしてくれるらしいよ」という話が、

人づてに伝わるうちに、「無償でやってくれるんだって」に変わっていることがある。

(おせっかいな母ちゃん扱いかよ、と思いながらDAWを立ち上げる)。

 

こちらが原盤権を持つ前提だから成り立つ話なのだけれど、前提はだいたい途中でどこかへ消えている。

円安で機材の値上げ幅がさすがにエグくないですか

 

さらにコストもかかる

変換作業には、けっこう無視できないコストが伴う。

録音にはお金がかかるし、権利の整理には手間がかかるし、契約には知識がいる。

 

目の前のライブでギャラをもらった方が、よほど早くお金になる気がするだろう!!

(日本でショーケースライブが少ない理由も、その辺りにあるらしい)。


だからこそ、才能ある演奏家でも、その一手間をかける前で足踏みしてしまうことがあるのではないか。

これは検証したわけではない、あくまで今の仮説として置いておきたい。

沖縄で開催される国際ショーケースフェスティバル「Music Lane Festival Okinawa」

 

4. 残すという仕事を、自分にも向けてみる

世界一周をしていた頃の私は、体験を味わい尽くすことに全力だった。それはそれで、楽しい生き方だったと思う。

 

でも今、レコード会社の経営者として原盤権や著作隣接権と向き合っていると、

あの旅の記憶を、もし文章に残して発信していなかったら、

今頃どこに消えていたんだろう、とふとゾッとすることがある。

 

こうしてnoteを書いているのも、多分その変換作業の実践だったりする。

とはいえ、旅先で目の前から外国人が歩いてくると、未だにコソッと隠れてしまうタイプの経営者ではある。

でも、こういう独り言も、もしかしたら来年の私や、どこかのインディーズアーティストにとって、小さな資産になるかもしれない。

そう思いながら、今夜もまた一本、書いている。

 

※レーベル運営者として日々感じていることを書いた、個人の考察メモです。

著作権制度や業界全体の見解を代表するものではありません。

現場で気になったこと、面白いと思ったことを、そのまま言葉にしています🎹

 

参考サイト

4.1 原盤権の解説 – 弁護士法人クラフトマン 

契約と現在の制作スタイル – 日本音楽出版社協会

音楽業界の権利関係 – 音楽著作権総合研究所

どうして複雑なの?音楽業界相関図から紐解く音楽利用申請 – Co-Lab

著作隣接権とは – 公益社団法人日本演奏連盟

 

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