ビジネス版「おじアタック」を断った日。キャリアの選択に迷ったら考える、働き方の優先順位
久しぶりに元上司から連絡がきた。
「信頼できる人に頼みたい仕事がある」
そう言われて、悪い気はしなかった。懐かしいし、会ってみようかな、と。
でもね、結果的に丁重にお断りすることになったんです。
今日はその話を、少し自戒を込めて書いておこうと思う。
提案の内容
依頼されたのは、ホテルの宴会場での音響(PA)を一括で請け負う仕事。
1日10〜15件の宴会があって、複数のバンケットを回ってマイクやプロジェクターをセッティングする。繁忙期は終業が23時半を回ることもあるらしい。
音響のスキルは私にもあるから、技術的にはできる。
「いやー、今の現場が大変でさあ!人も足りないし、アルバイトとして、あるいはゆくゆくは事業承継も視野に入れて信頼できる君に頼みたくて!」
……アルバイトからの承継?
信頼できる人に頼みたい、そう言われれば悪い気はしない(2回目)。けれど提示されたのは、私の現在の事業とはかけ離れたものだった。
(この時点で胸の奥が少しザワついたのは、きっとホテルの空調のせいだけじゃないはず)
あれ、なんか変だぞ
久しぶりの再会は懐かしかった。
でも話が進むにつれて、心の中で小さな違和感が膨らんでいった。
先方の事情——今の仕事がいかに大変か、どうして人手が足りないか——というお話はずっと続くんだけど。
よく考えたら、相手が話していたのはほとんど相手側の事情だった。
- 弊社がどんな事業をしているか、事前に調べた様子はない
- 事業について尋ねられることもほとんどなかった
- 気にかけてくれているのは、旦那の稼ぎで食べていけているか、帰宅が遅くなると旦那の晩御飯は大丈夫かという話題
……一応、経営者として来てるんですけど?音楽家でもあるんですけど?
そして弊社が今後どうしていきたいかについては、ほとんど聞かれなかった。
時空が歪んでいる!!!チクリと胸が痛んだ。
あ、これ、私が傷ついている場合じゃない。

なんだかんだで、1時間半くらいずっと話を聞いてました。
夫の一言で気づいた
帰宅して夫に話したら、一言。
「それ、都合のいい人探しだよ」
……あ。その言葉で、私の中でストンと腑に落ちた。
これは、おじアタックのビジネス版だ。
- 自分の事情ばかりを話す(俺通信)
- 相手の状況は背景扱い
- 信頼しているという言葉の裏に、都合よく使いたいという本音が透けて見える
- 断られること自体を想定していない一方通行のコミュニケーション

もしかして、相手の苦労話にとって都合のいい背景役として呼ばれたのかな…?
世の中にはおじアタックという言葉がある。
相手の事情はお構いなしに、自分の話や好意を一方的に押し付けてしまうコミュニケーション構造のことだ。
恋愛の文脈で語られがちだけど、ビジネスの現場にも確かに存在する。
そうか、私はビジネス版おじアタックを受けていたのか(笑)
断った
夫からも「それ、会社の方向とは違うんじゃない?」と言われて、迷いは消えた。
今は自社の音楽コンテンツ制作や、これからの家族計画に時間と体力を使うべき時期だ。
そこをぼやかしてまで誰かの手伝いに時間を使うのは、結局のところ自分の会社にも家族にも中途半端になってしまう。
私は以下のように伝えた。
「お話ありがとうございました。ただ弊社の事業方針として、PA現場の一括請負は行っておらず、今後も展開する予定はありません。また現在の体制では、その規模の業務を安定的に請け負うリソースもありません。中途半端にお引き受けして、ご迷惑をおかけするより、最初から別の方を探していただく方が良いと思います」
感謝は形式的に入れつつ、謝りすぎず、理由は方針とリソースの2つで明確に。
相手への配慮も忘れずに、でも迷いなく。
***
思い出したのは、帰り際に元上司が言った一言だった。
「この街のカレー屋さん、一緒に行ったよな。覚えてるか?」
——覚えてるよ。
そんなの、忘れるわけない。
退職してからだって、ずっと。
でも、あの場所に座っていた二人は、もういない。
相手も私も、それぞれ別の場所で生きている。
懐かしさは本物だったのに、今回の話はあの頃へ向けて語られているようで、
そこに今の私はいなかった。
今回の経験で気づいたのは、過去の関係性に引きずられそうになったとき、今の自分の軸で判断できるかということだ。
現在を犠牲にしてまで義理を優先するのは、自分の会社や今の生活に対して無責任だと思う。
ビジネス版おじアタックなんて少し意地悪な言い方をしてしまったけれど、おかげで感情に流されず、冷静に判断できた。

ふと頭をよぎったのは「これ、税務まわりまで想定してたんだろうか」という小さな疑問。
たぶん、あの空気感だとそこまでじゃない。
おわりに
もしあなたの元にも、なんだかモヤモヤするけれど断りづらいという案件が舞い込んだら、一度立ち止まって考えてみてほしい。
その会話の中で、こちらの事情もちゃんと聞いてもらえているだろうか?
都合のいい人になろうとしていないだろうか?
やらないと決めることは、自分と自分の大切な未来を守るための、立派な経営判断だ。
ビジネスの現場でも、あなたをフラットな対等者として見ていないコミュニケーションは存在する。
それを見抜く力と、毅然と断る力。
どちらも、これからの時代を生きる小さな経営者には必要なスキルだと思う。
※この記事は、特定の個人を批判するつもりはありません。あくまで私の学びの記録です。プライバシーに配慮して、内容はちょっとだけ変えてあります。昔の職場、馴染みの街に行けて、とっても楽しかったです!
studio iota LLC代表 | 作曲家・ドラマー・音楽心理士レコード会社運営、ジャズの輸入などを通じて世界を音楽でつなぐ。
国立音楽大学卒業後、ロンドン、ベルリン、ニューヨークで演奏活動。25Lのリュックとドラムスティックで世界一周した経験から生まれた音楽コンテンツの制作や、付加価値の高いクリエイティブの提供を主軸としている。
コメント ( 0 )
トラックバックは利用できません。
この記事へのコメントはありません。