IOTA-LOG

おとと、たびと、しごと

キューバ音源の流通とローカライズの実践。
存在しているのに聴かれていない音楽を、どう届けるか。

 

この記事は最後まで無料です!

もしこのちょっと酔狂な取り組み、いいなと思っていただけたら、
noteでご支援(500円)いただけると嬉しいです。

 

スタジオイオタ(studio iota LLC.)代表の前田紗希です。

先日、インディペンデントレーベルの団体であるILCJの理事会に参加し、

海外音源の流通にかかる助成金申請についてお話しする機会をいただきました。

 

正直に言うと、申請金額は1万円程度。

しかも自分への対価ではなく、外部スタッフへの記事制作費です。

 

それでも理事会で直接話す場をいただき、少し不思議な気持ちのまま参加してきました。

今回は、その内容と、そこで考えたことを整理して書いてみます。

 

studio iota LLC. について

音楽制作から流通までを担うレコード会社・音楽出版社

簡単に自己紹介から。

私は普段、ミュージシャンとして活動しながら、studio iota 合同会社という会社を運営しています。

事業としては、レコード会社音楽出版社を軸に、

音楽の企画・制作・流通までを一貫して行っています。

 

ピアノインストやジャズを中心としたインストゥルメンタル音楽の原盤制作を主に、

店舗BGM、ウェディング音楽、音楽療法など、暮らしの中で使われる音楽をつくる仕事が多いです。

基本は一人で運営しつつ、案件ごとに外部の方とチームを組む形です。

 

海外の音楽が届かない、という実感

いい音楽が外に届かない理由

これまで音楽活動の中で海外を回る機会があり、

各地で本当に素晴らしい音楽家に出会ってきました。

 

ただ同時に感じていたのが、存在しているのに聴かれていない、という状況です。

 

流通の問題、インフラの問題、言語の問題。理由はいくつもありますが、

結果として作品がその土地の外側に届かないケースは少なくありません。

 

鎌倉の埋もれた音源を届ける——300曲の配信化

国内での実践例。埋もれた音源の再流通と価値の再設計

この課題は、日本でも似た形で経験しています。

以前、鎌倉でカフェを運営していたのですが、

そこで出会ったのが、日本で民族音楽をやっている方々でした。


鎌倉の実店舗カフェ iota DELI & CAFE(朝日新聞デジタル様より)
ケルト音楽やアフリカ系など、すごく良い作品があり、カタログ化もされているのに、

コミュニティの中で完結していて、ほとんど流通していない。

 

そこで、過去の音源をお預かりし、

  1. マスタリングの再調整
  2. メタデータ整備
  3. デジタル配信への登録

 

といった形で、300曲ほどをデジタル配信に繋げました。

 

さらに「出す」だけでなく、

  • キャンプ場で撮影した焚き火の映像と組み合わせてリラックス用途として再定義したり

 

  • noteなどで音楽的背景を解説したり

 

という形で発信をしたところ、埋もれていた音源がちゃんと再生され、収益にも繋がりました。

音源そのものだけでなく、文脈と届け方を整えることで価値が変わる。

この経験が、今の活動のベースになっています。

 

キューバ音源のフェアトレード流通

日本のレーベルをハブとした海外展開

こうした経験をもとに、現在はキューバの音源を扱う取り組みを行っています。

キューバの音楽は信じられないくらいレベルが高い一方で、

インターネット環境の制約や経済的な問題も重なって、作品が海外市場に出にくい状況があります。

 

そこで、現地で制作された音源を正規に買い付け、日本のレーベルとして、

そして現役音楽家のネットワークも活かしながら、

  1. 配信
  2. 現地を訪れた複数ライターによる紀行文(異なる視点)の制作
  3. 専門的なリズム解説記事の制作

 

を担い、グローバルに届ける取り組みを始めました。

 

▶︎過去記事 【キューバ】渡航を考えている方必見!通貨とカードの基礎知識と換金の裏技

【キューバ】渡航を考えている方必見!通貨とカードの基礎知識と換金の裏技

コロナ禍以降、キューバ国内は大きく変動しました。物価が3年前の10倍。特に二重通貨の廃止とハイパーインフレが国内外で注目を集めています。

 


その一例として、キューバのドラマー、ルイ・ロペス・ヌッサ率いるキューバンジャズ作品を、日本経由で配信しています。

世界の名曲をキューバンジャズでアレンジした作品で、初めてキューバ音楽触れるリスナーにも入りやすい内容です。

配信リンク: https://lnk.to/9tAPyv1m

 

このアルバムは、メキシコ在住のドラム奏者 Zin Atrevido HitoshiがCDを手で運んだことから始まりました。

発売はstudio iota 合同会社・前田紗希が担当。インターネットでは越えられなかった壁を、人が越えた。それがこのプロジェクトの出発点です。

 あわせて、日本語圏ではあまり体系的に語られてこなかった、キューバ音楽のリズムの面白さも解説していきます。

 

 

ローカライズの役割

音源を市場に適合させるための設計工程

今回申請した助成金は、この中でも「ローカライズ」と呼んでいる部分です。

キューバの音楽は非常に高度なリズム構造を持っていますが、

そのままでは一般リスナーにとって理解しづらい側面があります。

(民族音楽って怖いとか不気味ってイメージもありますよね。)

 

それを、音楽的に分解し・言葉にし・リスナーが理解できる形に整える という工程を行っています。

 

執筆は、スペイン語と打楽器に精通し、20年以上のキャリアを持つドラム講師が担当しています。レーベル業務の延長というより、専門的な翻訳作業に近い領域です

 

キューバの現場では共有されている音楽的なロジックも、日本のリスナーにとっては未知のもの。

そこを翻訳し、文脈を整えることで、初めて聴かれる音楽になります。

 

段階 状態
変換前 キューバの(誰も知らない)凄いドラマーの音
変換後(ローカライズ後) 日本のレーベルが発信する、リラックスして聴けるキューバンジャズ

 

「ただのお金儲けでは?」に対する考え

音楽のフェアトレードという答え

理事会でこんな質問をもらいました。「音源が売れれば、前田さんの会社がビジネス的にガポガポ儲かるって話ですよね?

その点については、そうではないという認識でお話ししました。

収益  大部分は現地のミュージシャンへ還元

手数料 弊社が受け取るのは最低限のみ

広報費 基本的には自社で負担

 

むしろ、メキシコ在住のドラマーが持ち込んだ「自分が知らないキューバのミュージシャン」のために、広告費と手間まで自社で出そうとしているわけです…。

なぜか。音楽が良かったから。

ドラマーとしての血が騒いだから。

それだけの、ある意味で酔狂な理由です。

 

現在キューバでは、外貨を稼げるかどうかがその人の社会的な立場に直結します。

音楽で外貨収入を得ている人は、医師より高く評価されることもあるそうです

 

音楽の価値が、そのまま生活につながる状態をつくること。

それが、いち音楽家としての、この取り組みの前提にあります。

 

原盤権よりも「文脈」で価値をつくる

もう一点、よく出てくる論点として「原盤権」があります。

弊社はキューバの音源の原盤を持っていません。

なぜ原盤権を持っていないのに日本のレーベルが関わるのか、という点です。

 

POINT

実務の中で感じているのは、一般的な国際流通を前提に設計された制度や仕組みが、そのまま当てはまらないケースがあるということです。

特にキューバのように、金融やインフラの面で制約がある地域の場合、その前提自体がうまく機能しない場面も少なくありません。

そのため、原盤を持つかどうかだけで整理できる話ではなく、どうやって流通に乗せていくかという設計の方が重要になると感じています。

 

現在は、日本のレーベルが窓口となり、第三国を経由しながら、流通の部分を担っています。

既存の仕組みだけでは届きにくい音源を外に開く方法のひとつとして、

自分なりに意味のある取り組みだと思っています。

 

▶︎過去記事 【実体験】音楽の前に生き延びろ。キューバ渡航ESTA問題で学んだ海外サバイバル

キューバへ入国すると、アメリカのESTA(電子渡航認証)が取得できなくなります。

【実体験】音楽の前に生き延びろ。キューバ渡航ESTA問題とメキシコ生活で学んだ海外サバイバル

 

 


▷ この取り組みの核心
届けることも、
音楽の仕事だ。

小さな取り組みから

今回、理事会という場に初めて参加しましたが、想像していたよりもずっとざっくばらんな空気でした。

今回申請している助成金は1万円と、ごく小さな金額です。

内容としては、専門的な記事の執筆とローカライズにかかる費用になります。

 

ただ、この工程があるかどうかで、音源の未来が少し明るいものになるのではないかと思います。

まだ試行段階ではありますが、こうした小さな積み重ねの中で、

海外の音楽と市場をつなぐ形を少しずつ作っていけたらと思っています。

 

今後も、音楽をつくることと届けることの両方に向き合いながら、活動を続けていきます。

同じようなことをやっている方がいたら、ぜひお話しできたら嬉しいです。

studio iota 合同会社は、レコード会社・音楽出版社として、歌のない音楽・世界の音楽を届ける取り組みを続けています。

キューバ音源のリリース情報や、音楽のフェアトレードに関する続報は、note および studio-iota.com にて発信していきます。

 

ライター 前田 紗希

国立音楽大学作曲科卒業。のちに一般大学で心理学の学位を取得。ドラマー、作曲家として活動し、ロンドン、ベルリン、ニューヨークでの演奏経験を重ねる。25リットルのリュックとドラムスティックを携えて世界一周のち、旅・音楽・食を融合させるレコード会社兼出版社「studio iota LLC.」を設立。

2023年には「Gwangju Busking World Cup(韓国)」「Tainan City Music Festival(台湾)」「GLUC Fest(台湾)」に出演。2025年には「Karneval der Kulturen(ドイツ)」にドラマーとして出演。

演奏活動の傍ら、現在9つの事業を展開している。また音楽療法士として、音楽療法の普及にも取り組んでいる。

 

 

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